特許法 特許権の侵害と法的救済
第4節 特許権の侵害と法的救済
1 特許権侵害
(1)基本形式 T.p.56
特許権侵害=
①特許権によって保護される発明の範囲+
・① ⇒ 「特許発明の技術的範囲」に含まれるかを検討
②「実施」行為+
③特許権が制限されない範囲+
④無許諾+
⑤業として行う
(2)文言侵害 T.p.57-59
特許権によって保護される発明の範囲=「技術的範囲」
技術的範囲=明細書の「特許請求(クレーム)の範囲」の記載に基づいて特定(70条1項)
「請求項」とその実際
特許請求の範囲の重要性=記載の仕方により特許権の範囲に差が生じる
技術的範囲の解釈(クレーム解釈)は特許請求の範囲以外に、明細書や図面
(70条2項)、出願手続経過、出願当時の技術水準なども参酌
特許権侵害=被疑侵害者の技術が技術的範囲に含まれること=相手方の技術が特許請求の範囲で定められている構成要件をすべて含んでいること ⇒ 文言侵害
(3)均等侵害 T.p.59-65
均等論(均等侵害)=
①完全な特許請求の範囲を記載することは不可能であること
②特許取得のインセンティブあるいは技術開発のインセンティブを確保すること
等の理由から、構成成要件の一部を充たさない技術を特許発明と実質的には同じ(均等な)技術と評価して、特許発明の技術的範囲に含まれると解釈し、侵害を肯定する考え方
第三者が不測の侵害行為を侵すことになり、法的安定性が害されないよう、その要件を明確化することが重要
第1要件:非本質的部分性=特許請求の範囲と対象製品との異なる部分が「本質的部分」でないこと
第2要件:置換可能性=特許発明の構成要件の一部を他の方法や物で置換しても当該発明の目的を達成でき、同一作用効果を実現できること
第3要件:置換容易性(容易想到性)=当該特許請求の範囲を当業者が見れば当該置換を容易になし得ること
第4要件:非公知技術性=特許発明の出願時点における公知技術と同一または容易に考え出すことのできた技術でないこと
第5要件:意識的除外等の特段の事情の不存在=均等論を否定すべき特段の事情がないこと/禁反言(エストッペル)、衡平、信義則
2 特許権侵害成立の例外
(1)特許無効 T.p.65-66
無効理由がある特許権 ⇒ 特許無効審判(123条)によって消滅させるT.p.104
特許権の付与およびその無効は特許庁のみが行うことが可能
※裁判所と特許庁の権限分配
キルビー特許事件最判(平成12年、2000年)は権利濫用法理により処理
特許無効の抗弁(104条の3第1項)=特許権に無効理由が含まれている場合、当該特許権の権利行使(例:侵害訴訟を提起し、差止や損害賠償を請求)を認めないというもの。平成16年改正により創設
(2)先使用権 T.p.67-68
実施権=特許発明を業として実施することができる権限。’
約定実施権(=特許権者の意思により成立(ライセンス契約等))
法定実施権(一定の条件下で自動的に成立)
先使用権(79条)=同一の技術について先使用者と特許権者の利益の衡平を図る
要件:特許出願時に、日本国内で発明の実施である事業をし、あるいはその準備をしていること
3 特許権侵害の判断手法 T.p.69-72
(1)特許権侵害の主張
被疑侵害者Yの技術が技術的範囲内あること、「実施」を行っていること等
(2)相手方の主張
特許無効の抗弁、制限規定(69条)、消尽法理、先使用権など
4 間接侵害
(1)総論 T.p.72-73
(特許権の)間接侵害=特許権の保護の実効性を確保するため、「業としての特許発明の実施」(68条)に該当しない行為についても、直接侵害行為の予備的行為・幇助的行為として特許権侵害とみなされる侵害
cf. (いわゆる)著作権の間接侵害(=直接侵害の主体を拡大することにより認められる侵害)
間接侵害の類型(101条):
①専用品型間接侵害
②非専用品型間接侵害
③模倣品拡散助長型間接侵害(譲渡・輸出のための所持行為)
(2)専用品型間接侵害 T.p.73-74
101条1号(物の発明)、4号(方法の発明)
趣旨:直接侵害行為(生産、譲渡など)を事前に抑制し、特許権を実効的に保護
客観的要件:「のみ」。社会通念として経済的、商業的、実用的であると認められる用途(一眼レフ事件(東京地判昭和56年2月25日)など)
(3)非専用品型間接侵害 T.p.74-77
101条2号(物の発明)、5号(方法の発明)
平成14年に追加趣旨 ← 「のみ」要件を厳格に解釈すると間接侵害による保護がほとんど受けられない可能性
客観的要件(規制対象物に関する要件):「不可欠品」
主観的要件:
①当該「不可欠品」が用いられる発明について特許発明であること、
②当該「不可欠品」がその特許発明の実施に用いられていること、を知っていること
(4) 模倣品拡散助長型間接侵害 譲渡・輸出のための所持行為 T.p.77-78
101条3号(物の発明)、6号(物を生産する方法の発明)
趣旨:所持の段階で規制しないと侵害品が拡散し、侵害防止が困難となる
(5)直接侵害との関係 T.p.80-79
間接侵害の成立には直接侵害の成立が必要か?
⇒ 従属説(=「必要」)または独立説(=「不要」)
いずれかの説に固執することなく、直接侵害が成立しない理由(根拠条文とその制度趣旨など)を考慮して間接侵害の成否を判断すべき
5 法的救済
(1)民事的救済 T.p.80-84
イ)差止請求
100条1項、2項
故意または過失は不要
ロ)損害賠償請求
民法709条が根拠条文
過失の推定(103条)
損害額の算定(101条1~3項)
相当な損害額の認定(105条の3)
ハ)不当利得返還請求
民法703条
10年の消滅時効(民167条1項)⇔ 不法行為は3年(民724条)
(2)刑事罰 T.p.84-85
直接侵害者(196条)、間接侵害者(196条の2)、両罰規定(201条)
非親告罪